― 木 星 人 の は な し ―

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– I. 遭遇

カレハソコニイタ

ドウロコウジノタメニ イマキラレタバカリノ樹ノナカニ

ソコニイタカレヲミツケタオトコハキラレタネカブヲイエニモツカエッテ

樹ノナカニイタカレヲホリダシタ

カレニハウデモアタマモナッタガ  サンボンノアシガアッタ

スルトカレハソノミジカイアシデ アルキダソウトシタ

ケレドモサンボンメノアシガジャマヲシテ、ウマクアルケナカッタ

オトコハカレニ「ドコニイクンダ?」トキイタ

カレハ「イママデ樹ノナカデウゴクコトガデキナカッタ・・

アシガデキテウレシインダ」トコタエタ.

ソシテアシヲジマンスルヨウニフンバッテミセタ.

キノナカニナニカイルト オトコハズットオモッテイタ

ソノイキモモノスガタガイマアラワレテ

ナツカシイトモダチニアエタヨウナキモチニナッタ.

ソレカラオトコハカレノナカマノイル樹ヲミツケテハ

イエニモチカエリ ナカマヲフヤシテイッタ.

アルヒオトコハカレラニキイタ

「イツカラ樹ノナカニイタンダ?」ト

カレラノナカノ[タラノキ]ガコタエタ

「ズットマエ、コノホシニマダキミタチジンルイガイナカッタコロ

〈木星〉カラボクタチノソセンガヤッテキタ

ソノコロ コノホシハマダツメタクミズニオオワレテイテ

スクナイリクチニソセンガスミツイテイタ

ソシテダンダンアタタカクナリ<樹>ノセンゾタチハ

コノホシデナガラクハンエイヲハジメタ.

トコロガ〈ジンルイ〉トイウキミタチノソセンガコノホシニ

アラワレテ コノホシガオカシクナリハジメタノダ

〈樹〉タチハハジメ、シェルタートシテ

ウマレテマモナイ〈ジンルイ〉ヲマモリ

ソノユタカナカジツヲアタエテイタガ

コノホシガサムクナリハジメ、〈樹〉ガヘルト

ニホンノアシデアルキハジメ 〈森〉カラデテイッタ

ソシテ〈樹〉ヲキッテ〈火〉ヲツカイ

ホカノイキモノタチヲセイフクスルヨウニナッタ

キミタチハソノカズヲフヤシツヅケタ

モノイワズ ニゲルコトノデキヌ〈樹〉タチハ、ズットキラレツヅケタ・・

シッテイルカイ?

カツテコノホシニブツカロウトシテイタオオキナインセキガアッタコトヲ

ソシテソノインセキヲ〈木星〉ガヒキヨセタコトデ

コノホシガスクワレタコトヲ…

ソレドコロカ コノホシノスベテノイノチノモトニナッタ〈アミノサン〉ハ

〈木星〉カラノショウワクセイノショウトツデウマレタンダ

ボクタチハズット〈樹〉ノナカニイタ

キミタチニハ ミエナカッタダケダ

ミヨウトシナカッタカラ・・・

イマキミタチハ シリハジメタ

〈樹〉ガコノホシニモタラスホントウノチカラトメグミヲ

イノチヲハグクムパートナートシテ.

ボクタチ〈木星〉カラヤッテキタ〈木族〉ノシソンハ

イマスガタヲアラワシタバカリダ

ボクタチハコレカラ〈ニンゲン〉タチニ モットヒロガルダロウ

ボクタチヲテニイレルタメニ〈樹〉ガキラレ

ソシテタリナクナルト〈樹〉ヲウエ ソダテルダロウ

[タラノキ]ハコウツヅケルト  イツモノガニマタスタイルニモドッタ

オトコハソレカラカレラヲ《木星人》トヨンダ.

―Ⅱ.増殖

《木星人》を見つけたおとこは 大神の山、大山のふもとに作業場をさがし歩いた. 

そしてある小さな谷の奥に分け入ったとき小高い丘にたどりついた.

そこは幾つかの建物が点在する<廃墟>だった.

-時が止まっていたー

おとこはその丘に住みつき《JUPITARIAN HILL》(木星人の丘)と名付けた.

そのおとこはかつて都会に住んでいたとき<廃墟>を探して彷徨っていた. 

人づきあいが苦手で、過密な都会のなかの空地や工場跡を歩き回った.

(真空に吸い寄せられるように)

-ここも捨てられた場所だった.

おとこはいろんな〈木族〉を集めてきた.

伐られた庭木や果樹、家屋を解体した古材、地中に埋もれていた土埋木、

波に洗われた流木、神社の御神木だった巨木達、

皆 人間に不用とされた〈木族〉だった. 

おとこはそんな〈木族〉達なかに《木星人》をみつけては彫り出すことに没頭した.

その中には2本足で立つものや ほかの木星人より

ずっと大きく風格のある女王級のものも現れた.

そして敷地内には多足の〈木星獣〉も数頭、男の手で集められた.

彼らは夜毎 南方の空に現われる《木星》に想いを馳せていた.

やがて《木星人》の噂を聞きつけた〈ニンゲン〉達がこの丘にやってくるようになった.

近くのイチョウ林で見つけた根株の門番が来訪者を出迎えた

彼等のなかには《木星人》を見たとたんギョッとして、

ひいてしまうものもいたが、連れて帰りたいと引き取るものも多くいた .

– 《木星人》につかまってしまうのだった

引き取り先で彼らは出会うひとたちに どうだいとイバッテいたり 

愛嬌をふりまいて ペットのふりをして居ついていた.

彼らを見た人は口々に「カワイイ!」とか「ヤバイ!」といっては

思わず近づいてなでまわしたりさすったりしていた.

笑い出すひともいた. そして「いったいどこにいたのか?」と聞いてまた彼らを欲しがるのだった.

《木星人の丘》の一帯はなだらかな丘陵地帯で 手入れの

行き届いた田畑のあいだに雑木林が所々に残り、穏やかな時間がながれていた.

樹々の見せる折々の表情や道端の草花の多彩さに おとこは目を見張り

なかでも四方に点在する池はお気に入りの場所だった

そして四季を通じてさまざまな野イチゴが実るこの丘を

<ストロベリーフィールズ>とも呼んでいた.

表土が削られた《木星人の丘》にはオトコがきた後に、

鳥や風が新しい木族の種を運んできた.

―ポプラ、ネムノキ、クリ、コナラや、コンクリの隙間から育つクワ

ケヤキ、コンクリートの電柱を依代にしてあっという間に伸びるエノミやサクラ・・ 

彼らの生命力にオトコは驚嘆した.

強い風と年々強くなる夏の日差しに晒されるこの丘に、樹はなくてはならなかった.

中庭に近くの森から伐られる寸前だった樹齢20年のタブの樹を仲間の手で掘り起こし運んできた.

それは大きな木がなく廃墟だったこの丘のシンボルトゥリー(ヒモロギ)

となり、星の輝く中空の夜空におおきくそのすがたをおとしていた.

そして近くの森から持ち帰ったドングリを育て 植え付けた.

(オトコはこの丘を木族で埋め尽くしたかった)

男はいつしか周囲の人たちから<木人>とよばれていた.

ある日 この静かな丘に「ギャ― 」という物音が風にのってとどろいた.

すぐちかくに建設される高速道路の事前調査のために樹が伐られ始めたのだ..

オトコにはそのチェーンソーの音が樹の悲鳴にきこえた.

そして音がやんだあとに 伐り倒されたシイやコナラのどんぐりを

拾い集めて袋いっぱい持ち帰り、苗をそだてた.

そして伐られた枝や壊された倉庫の廃材を集めて新しく建てる小屋の骨組みを作り

 辺りにある竹やススキやカヤで屋根を葺いた.

集めた枝や枯れ木は燃料にもつかった.

周囲の丘からは古代の住居跡が発掘されていた、この丘もそうだった.

オトコは近くにあるものを使うしかなかった先住の人々の暮らしに想いをはせた.

―樹に覆われたこの丘にはじめて来たとき 大きな樹の南側に

穴を掘り 石器で伐り倒した樹を寄せ集めて組み上げ木の皮や草で屋根をふいた.

そしてクリやシイの木の実を集めアクをぬき 枝や枯れ木で火をたいて食べていた.  

(クリは水に強く 腐れにくく また燃えにくいため木材として重宝された)

ちかくに川はなかったが丘の斜面にはそこかしこに水が湧いていた.

(1万年前の大山の噴火後 樹木林が貯えた雨雪の融水が北側の

火山灰土のすぐしたを豊富に流れていた)

またこのあたりの土も良質な粘土質で 焼き締めて須恵器をつくっていた.

おとこは《木星人》の告げたことを思い出していた

―〈樹〉と〈ジンルイ〉のキッテモキレナイ仲を―

丘の周囲はヒトがはいらぬ竹藪や林も多くウサギや、キジ、イタチ、タヌキが生息していた.

近くの山で工事が始まった時には 難をのがれるように多くの野鳥がこの丘に姿をあらわした.

彼らは見晴らしのいいこの丘で 互いに鳴き交わし

意気投合するとまたちかくの藪に飛び去った.

初夏には 谷からホタルが飛んできて逢引きしていた.

本格的な道路工事が始まった.

重機の音と振動がこの丘をゆさぶった.

予定地の樹がすべて伐られ 山が削られた―

それは  ニンゲンという虫が自然を食いあらす光景だった.

そして山から海へとつづくいきものたちの生態系を分断した.

この丘には前にもまして動物たちが頻繁にやってくるようになった.

ある日鳴り響くチェーンソーの音にいたたまれなくなって その伐採現場にいくと

 伐り払われた雑木林のおくにおおきな杉の根株が残されていた.

それは2本の幹の根元が合体している夫婦杉だった.

おとこは了解を得て 自らの手でその根株を伐りまわした.

見事な紅色をしたその木口は樹齢100年をゆうに超えていて

そこにいた皆も驚いた.  ーこの森の主だった.

― Ⅲ. 進化

数年後 ついに高速道路が開通した.

それまで静穏で、星空に輝いた丘が車の放つ騒音と振動と光に一日中晒され続けた.

-オトコが逃れた都会の喧騒がすぐそこにきた

インターチェンジに程近い《木星人の丘》にも多くの人間たちが訪れるようになった.

《木星人》は人気を集めた.

《木星人》を見つけた オトコは

《木星人》を作る ための木を探し始めた.

どこかで伐られる樹があるときけばすぐにかけつけ もらいうけた

そして つくりやすい真直ぐな樹や高く売れる《木星人》がいそうな

木があると 手当たり次第手にいれるようになった.

注文に応える為 オトコひとりでは手が足りず、ひとを雇い入れた.

そして、流れ作業で効率よく作り出す様になった.

同じ種類、大きさ、かたちの《木星人》が次々と製造され、売られていった.

彼らは 木を使わなくなった人間の住居のなかに入り込み、

本物の木のぬくもりや優しさを示すマスコットとして受け取られた

―相変わらずひとの顔をほころばせながら・・

しかしそうして作られた《木星人》のなかには

[不良品}のレッテルを張られた《木星人》 も生まれていた.

.

あるとき 大きく割れてしまったため 工房のすみに投げ置かれた

〈ヤブツバキ星人〉がオトコを呼び止めた.

「オレガコンナニワレテシマッタノハ イチバンセイチョウシテイル

ナツニキッタオマエタチノムチノセイダ」とオトコを非難した

すると足の折れた〈タブノキ星人〉が続けた

「マンゲツノトキニキラレタショックガオオキスギテフンバルチカラガナクナッタ」と.

そして足の格好が悪いと、逆さにされた〈名の知れぬ雑木星人〉も

「オレノアシガブカッコウナノハ オレノスガタヲヨクミナイデ

ホリダシタカラダ・・ . オレタチハソレゾレミナチガッテイル

ソレナノニオマエタチハ オナジカタチニツクロウトスル

オレタチ<木族>ハウマレオチタトコロカラウゴケナイカラ

マワリニアワセテ ソレゾレケンメイニイキテキタンダ、

オレタチノスジョウモシラナイデ カッテニカタニハメナイデクレ」とまくし立てた.

そして彼は「オマエガコウジゲンバカラモチカエッタメオトスギニハワレワレノ王ガイル」と告げた.

翌朝おとこはずっと忘れていた夫婦杉を工房に運び入れ 無我夢中で彫り始めた―

彼は長い2本の足で立ち いままで見たことのないシンボルを持っていた.

出来上がった興奮と脱力感でおとこはその場に倒れこんだ.

満月のその夜 工房の中央に置かれたその大杉の王は

その伐られた<枝眼>を開けた. そして言葉を発した.

[yggdorasil……. Y g g d o r a s i l ………]

[T h o r n………. Y r……….. E o l h……….]

―彼は自ら歩いていた そして工房内に運び込まれた

<木族>達を眼にすると [イデヨ]と告げた

すると<木族>達はその本当の姿を現し始めた―

そのなかには トンガリ系や凸凹系、まん丸系やセクシー系ほかいろんな奴がいた.

―彼らは夜通し上になったり、下になったりして互いの樹液をⅹⅹⅹⅹⅹⅹⅹ・・・・

翌朝目覚めたオトコは大杉の王のまわりに集まっている《木星人》達を見て驚いた.

・・・( カレラハウゴイテイタ )・・・

腕らしきものを振り上げて〈シイノキ星人〉がオトコに告げた

「オレタチハ オレタチノヤリカタデ オレタチヲツクル

モウキミタチノチカラハイラナイ」 といって逆立ちした

するとまわりにいた《木星人》達もまねをした.

歓声がわき起こった.

「パワー・トゥ―・ザ・ジュピタリアン!」 「パワー・トゥ―・ザ・ジュピタリアン!」

彼らはオトコに《木星人の館》を建てさせた.

そこは陽あたりのいい南側の一角で、その円形の建物は、廃材や竹で建てられ、中央に深く穴が穿たれていた.

それは空に向かって開けられていた.

その穴には、不要とされた《木星人》たちが 自ら身を削り落した木くず

が積まれ、ロート状の屋根で集められた《木星》からの電磁波が夜毎降り注いでいた.

そこで彼らは、地球上のすべての<木族>のDNAから生成した種子を育てはじめた.

その種子はおどろくべき速さで成長した.

それは樹の中の樹ともいえる[スーパートゥリー]だった.

―Ⅳ. 共生

[スーパートゥリー]はニンゲン達によって荒廃した環境に耐える生命力を持っていた.

どんな痩せた土地でも根を張り、乾燥にも強く、CO2の吸収率は群を抜いていた.

さらに窒素酸化物への抗体をもっていたため都市の中でも強かった.

そしてなによりその成長速度が速く、またたく間に大きくなった.

また木材としても優れていて、水に強く、腐れにくかったためさまざまな用途に使われた.

そのうえ その実は栄養価が高く美味だった.

彼らはこの樹の[クローン種子]を大量に増やし インターネットを通じて販売した.

あっという間にこの[スーパートゥりー]は 世界に広がり、失われた

森を求める地域のシンボルトゥリーとして迎えられた.

そして依代としてその周りには多くの〈木族〉が集まり育っていった.

やがて至るところに[スーパートゥリーの森]ができたが

その中心のスーパートゥリーには、《木星人》が [木精]として

常駐していて森にちかづくニンゲン達を監視していた.

(彼らは売られた種子のなかにひそんでいた)

気を荒げたニンゲンが近づくと、森の樹々は警戒して

互いに梢をふるわせ フィトンチッドを放出し その気を鎮めた.

気の知れたニンゲンたちには カンファーを放出し、元気をあたえた.

こどもたちは樹にのぼると「ホッとして安らぐ・・・」と、サルの笑みをみせた.

またニンゲン達は、さまざまな樹々のなかにそれぞれ

惹かれる樹を見つけ 守護樹とした.

かつてのケルト人がそうしたように―

自分を失いそうなときに手を当て 互いの生命を確かめた.

-第 1 部  了

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